KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)

主に作家の日垣隆、猪瀬直樹、岩瀬達也、岡田斗司夫、藤井誠二などを検証しているブログです。

バカとテストと読書術(その六)ー日垣隆『つながる読書術』検証編D

・初めてこのエントリーを読まれる方は「日垣問題の記録」「ガッキィスレまとめサイト@ウィキ」のご一読をおススメします。



●『積ん読』の是非は?

前回エントリーからの続き)『つながる読書術』(講談社現代新書)のP12、P112から。

私は「積ん読」ということをしません。
P12

気になっているけれども、読む時間がない。でも、いつかは読みたい。こういう本がある場合、私は“いつか読みたい本棚”にまとめて並べておき、他の本(ジャンル別に書庫に並べてあります)のなかにまぎれこまないようにしています。
出張なり旅行に出かける機会があれば、その棚の本から十数冊をピックアップ。読みたいと思っていた本を読むきっかけとして利用します。P112

……もしもし、日垣センセイ。「僕は積読なんて、しないんだよ!」って啖呵を切りながら、一方では180度矛盾したことを書いてませんか?有料メルマガ第391号(2011年10月23日)でも、『◆「積ん読」の一気読み100冊(目標)ほか』と書かれています。最近、こういう記述が多過ぎるような気もします。


●巻末リスト『読まずに死ねない厳選100冊の本!』は、『14歳からの〈人生の教科書〉100冊』(文藝春秋2007年1月号)のセルフコピペ

本書のP237〜257には、『付録 読まずに死ねない厳選100冊の本!―14歳から99歳まで。きっとあなたの人生が変わり始める―』と銘打って、日垣センセイお薦め本リストがある。

文字通り日垣センセイが選定した100冊の本が、センセイ自身の簡単な解説付きで紹介されていますが……これって、妙に既視感を感じると思ったら、かつて日垣センセイが書いた『14歳からの〈人生の教科書〉100冊』(文藝春秋2007年1月号P316〜326)が元ネタではないですか。両リストを比較照合してみると、90冊は重複しています。まず本書の巻末リスト『読まずに死ねない厳選100冊の本!』(P237〜257)で、元ネタの『14歳からの〈人生の教科書〉100冊』(文藝春秋2007年1月号P316〜326)から差し替えられた(追加された)のは、以下の10冊ですね。

7.村上春樹『走ることについて語るときに僕の語ること』文春文庫
50.唐津一『ビジネス難問の解き方』PHP新書
65.張仲忱/岩井茂樹訳『最後の宦官 小徳張』朝日選書
70.J.ウェブスター/坪井郁美訳『あしながおじさん福音館文庫
75.藤沢周平『用心棒日月抄』新潮文庫
79.ツルゲーネフ/神西清訳『はつ恋』新潮文庫
80.シュトルム/高橋義孝訳『みずうみ』新潮文庫
94.宮部みゆき火車新潮文庫
98.東野圭吾『容疑者Xの献身』文春文庫
100.ショウペンハウエル/斉藤忍随訳『読書について 他二篇』岩波文庫

反面、『14歳からの〈人生の教科書〉100冊』(文藝春秋2007年1月号P316〜326)から削除されたのは以下の10冊です。

1.村上春樹レキシントンの幽霊』文春文庫
10.星新一『ようこそ地球さん』新潮文庫
13.宮部みゆき『ブレイブー・ストーリー(上・中・下)』角川文庫
19.原田宗典『優しくって少しばか』集英社文庫
25.バルザックゴリオ爺さん新潮文庫
40.西原理恵子『はれた日は学校を休んで』双葉文庫
54.黒井千次『働くということ』講談社現代新書
70.板倉聖霊『科学的とはどういうことか』仮説社
77.高橋秀実『からくり民主主義』草思社
90.上原隆『友がみな我よりえらく見える日は』幻冬舎アウトロー文庫


この種の企画は、いわゆる読書指南本の類にもお約束のように載っている定番であり、雑誌の読書特集でも頻繁に見かけます。選者の読書センス、ひいては読書量が試されるものですが……お世辞にも日垣センセイは「これまでに10万冊近くを読」(P14)んできたとは、到底信じられないお寒い内容です。

日垣センセイは、P189〜193で繰り返し「読書には古典を!」と持論を述べていますが、その割には両リストも古典が極端に少ないです。私見ですが、『読まずに死ねない厳選100冊の本!』(P237〜257)において、古典と言えるのは以下の8冊ぐらいでは?

4.ヘミングウェイ/福田恒存訳『老人と海新潮文庫
5.デフォー/阿部知二訳『ロビンソン・クルーソー岩波少年文庫
67.太宰治走れメロス新潮文庫
68.プラトン/久保勉訳『饗宴』岩波文庫
70.J・ウェブスター/坪井郁美訳『あしながおじさん福音館文庫
79.ツルゲーネフ/神西清訳『はつ恋』新潮文庫
80.シュトルム/高橋義孝訳『みずうみ』新潮文庫
100.ショウペンハウエル/斉藤忍髄訳『読書について 他二篇』岩波文庫

また、『14歳からの〈人生の教科書〉100冊』(文藝春秋2007年1月号P316〜326)でも、古典に値するのはせいぜい以下の5冊でしょう。

11.太宰治走れメロス新潮文庫
22.ヘミングウェイ老人と海新潮文庫
24.デフォー『ロビンソン・クルーソー岩波少年文庫
25.バルザックゴリオ爺さん新潮文庫
94.プラトン『饗宴』岩波文庫


日垣センセイは、古典の重要性を説いているけど、実はあまり読んでいないのでは?或いは、記憶に残らなかったとか。個人的には、折角P113〜114でフランツ・カフカ『変身』(新潮文庫)に触れているのだから、リストに入れてもいいのでは?P107〜109では夏目漱石吾輩は猫である』(新潮文庫)も取り上げていますから、『坊っちゃん』『三四郎』ぐらいは入れてもいいと考えられます。

また古典は古典でも、小説が大半を占めており、いわゆる人文科学系の本が皆無に等しいです。フリードリヒ・ニーチェツァラトゥストラはかく語りき』は?マルティン・ハイデガーの『存在と時間』、ジークムント・フロイトの『夢判断』『精神分析入門』、エーリッヒ・フロム『自由からの逃走』なども加えていいのでは。

古典だけでなく、現代の人文科学系の本も殆どありません(一方で自然科学系、特に生物学系が何故か多い)。クロード・レヴィ=ストロース『悲しき熱帯』、ミッシェル・フーコー『監獄の誕生―監視と処罰』、ジャック・ラカン『エクリ』、アラン・ソーカル及びジャン・ブリクモン共著『「知」の欺瞞』、ユルゲン・ハーバーマス『公共性の構造転換』、ハンナ・アーレントイェルサレムアイヒマン』、エドワード・サイードオリエンタリズム』『知識人とは何か』ぐらいはリストアップすべきではないでしょか。

その他では現代小説も、売れ筋の通俗小説ばかりでなく、もっと純文学系も取り上げるべきではないでしょうか。トマス・ピンチョン『ヴァインランド』、ガブリエル・ガルシア=マルケス百年の孤独』、ミラン・クンデラ『存在の耐えられない軽さ』、アレクサンドル・ソルジェニーツィン収容所群島』、J・D・サリンジャーライ麦畑でつかまえて』、トルーマン・カポーティティファニーで朝食を』『冷血』、安部公房砂の女』、遠藤周作『海と毒薬』『沈黙』、村上春樹ノルウェイの森』『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』、村上龍限りなく透明に近いブルー』『愛と幻想のファシズム』、よしもとばなな『キッチン』『哀しい予感』なども無視ですか。

尚、以前にも本書を巡る検証で取り上げた桑原武夫『文学入門』(岩波新書 1950年5月5日第1刷/1963年11月20日第31刷改版/1993年9月6日第74刷)のP173〜179には、「世界近代小説五十選」と題して海外の古典小説がリストアップされています。

さらに、紀田順一郎『現代人の読書』(三一新書 1964年6月23日第1版第1刷/1984年1月31日第1版第11刷)のP80〜145には「3.必読書リスト選」というタイトルで、内外の古典小説に加えて、SF小説の名作まで網羅されています。

これらと比較しただけでも、少なくとも「小説」に関しては、日垣センセイのチョイスは数段見劣りします。くどいようですが、本当に10万冊近く読んできたのかなあ……。まあ、そもそも14歳向けの推薦リストを、ほぼそのままシニア層向けに使い回している時点で、ダメなのでしょうが。「どうせ読者にはバレやしない!」と日垣センセイが高をくくっている可能性もあります。

今回で『つながる読書術』(講談社現代新書)の検証は、一応終了します。また気になる個所があれば、随時検証していくつもりですが。



★参考資料

Amazonカスタマーレビュー「蟷螂が蝶に空の飛び方を教えるが如し」

Amazonレビュークチコミ:「読まずに死ねない厳選一〇〇冊の本!」?

つながる読書術 (講談社現代新書)

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文学入門 (岩波新書 青版)

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