KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)

主に作家の日垣隆、猪瀬直樹、岩瀬達也、岡田斗司夫、藤井誠二などを検証しているブログです。

赤頭巾ちゃん、オオカミ中年に気をつけてー検証・日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』(その参)

・初めてこのエントリーを読まれる方は「日垣問題の記録」「日垣隆(Wikipedia)」「ガッキィスレまとめサイト@ウィキ」のご一読をおススメします。
※2014/3/26追記:エントリーを微修正しました。


精神分裂病との診断が下されていない?

前回のエントリーからの続き)日垣センセイは、『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫)のP101〜112において、1982年10月6日夜に東京都内の某所で発生した精神障害者による殺人事件を取り上げているのですが、その中で逮捕後の精神鑑定により「精神分裂病*1」と認定され、不起訴処分となって松沢病院に入院した同事件の加害者A(仮名)の「その後」を以下のように書いています。尚、事件はAによる単独犯であり、Aの事件時の年齢は22歳でした。


※日垣センセイの原文では、実名が明記されていますが、事件関係者存命などの可能性に考慮して、引用文でも仮名にしています。尚、この改変は著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」にあたると考えています。

驚くべきことに、松沢病院で彼は一度も精神分裂病原文ママ)との診断は下されていない。起訴前鑑定が「幻覚と幻想を伴なう(原文ママ)破瓜型精神分裂病」と安易に決めつけただけで、措置入院先では初日から「幻覚妄想は一切なし」と診断されている。措置解除当日、A(仮名)に対して同病院は、入院ではなく「精神保健センターへの通所」で充分としたものの、実父母が“精神障害”殺人者の帰宅を頑なに拒否し続けているため、なんと、現在も“家族の希望”で彼は入院したままなのだ。犯罪とも病気とも全く無関係な幽閉は、ある種の人権侵害と言わざるをえず、また凶悪な人格障害者を一般の病院スタッフにケアさせるのは酷に過ぎる。

彼は院内で殴打事件を三度も起こしており、「やられたほうが悪い。自分は被害者」との態度を繰り返しているという(私の調査および『法と精神医療』第一二号などにも前副院長らによる学術的報告がある)。彼は明らかに、一貫して病院では人格障害者として扱われている。ならば、起訴は当然として、彼こそは死刑判決を受けるべき犯罪者であった。

日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫、平成十八年十一月一日発行/平成十九年二月二十日四刷)P108〜109


上記の本書*2における日垣センセイの記述によると、Aは「松沢病院で彼は一度も精神分裂病との診断は下されていない。」(P108)、「彼は明らかに、一貫して病院では人格障害者として扱われている。」(P109)とのことです。

しかし、日垣センセイの記述は以下の点で、おかしいです。

日垣センセイが記述の根拠の一つとしている『法と精神医療』第12号(成文堂、1998年3月30日発行)を確認したところ、P1〜17にAの入院先の松沢病院の元副院長・藤森英之氏による「松沢病院における触法患者の実態ー触法精神障害者の入院形態の変更をめぐる問題ー」と題した講演記事が収録されていました。その記事のP6〜7で藤森氏はAの症例を[事例1]として取り上げているのですが、Aの症状については「分裂病*3」(P6)とハッキリ断定しています。しかも、記事からは、Aの統合失調症としての症状だけでなく、松沢病院においては医療スタッフから一貫して統合失調症の患者として処遇されていることも伺えます。

日垣センセイはAについて「松沢病院で彼は一度も精神分裂病との診断は下されていない」、「彼は明らかに、一貫して病院では人格障害者として扱われている」と明言していますが、Aを「分裂病」と認定している藤森氏の記事とは、結論が正反対です。日垣センセイが強調する「人格障害」という症状に至っては、藤森氏の記事には一言も出てきません。繰り返しますが、藤森氏の記事によると、Aが統合失調症であり、入院先の松沢病院においても一貫して統合失調症の患者として処遇されているのは火を見るよりも明らかです。

また日垣センセイはAについて「「やられたほうが悪い。自分は被害者」との態度を繰り返している」(P109)と記述していますが、これもおかしいです。藤森氏の記事では、下記のように記述されています。

このケースは高校1年頃から徐々に性格変化が現われ(原文ママ)、20代の前半に精神症状が突出し、殺人事件にまで発展した。感情と意欲の両面の障害が際立っていて、あきっぽく持久力もなく、他の患者との深い交わりもみられない。病識*4は欠如し「事件を起こしたのは、病気のせいではなく、自分はむしろ被害者である」と語っている。

藤森英之「松沢病院における触法患者の実態ー触法精神障害者の入院形態の変更をめぐる問題ー」『法と精神医療』第12号(成文堂、1998年3月30日発行)P7


日垣センセイは藤森氏の記事だけでなく、「私の調査」(P109)も元にしていると、独自取材の側面も強調していますが、実は藤森氏の記事の論述の一部をコピペした上で、勝手に都合よく書き換えているだけなのが分かります。独自取材をしている可能性は、低いと言わざる得ません。というか、これは改竄の一種なのでは……。他人のツイートを勝手に改竄する人ですから*5、さもありなんです。


●『法と精神医療』第12号からの盗用疑惑が!

さらに日垣センセイは、松沢病院内でのAの様子について独自に入手したらしい「部内マル秘資料」とやらを「引用」する形で、本書において以下のように書いています。

担当医は、最近のAの様子を次のように記している。

《看護者同伴ないし単独で院内散歩、あるいは病院の周辺にあるスーパーなどへ買い物に出ている。概して寡黙で孤立的である。自発性もなく、表情も、話しかけなければ、暗く陰鬱である。対応は躯*6幹をくねらせ、一見するとやや女性的な、はにかみともとれる仕草をしてみせる。自ら妄想を語ることはなく、感情の表出に乏しい》(部内マル秘資料による

Aは、起訴前鑑定時を唯一の例外として、精神分裂病との診断は一度も受けておらず、今も人格障害(精神病質)者の扱いである。

日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫、平成十八年十一月一日発行/平成十九年二月二十日四刷)P111


「部内マル秘資料による」……?

これは明らかにおかしい。なぜなら、上記の日垣センセイの記述における「部内マル秘資料」からの引用部分は、前述した『法と精神医療』第12号(成文堂、1998年3月30日発行)のP1〜17に掲載された松沢病院の元副院長・藤森英之氏の講演記事「松沢病院における触法患者の実態ー触法精神障害者の入院形態の変更をめぐる問題ー」にも、一字一句そっくりな箇所があります。該当部分は以下の通りです。

病状の安定しているときには、看護者同伴ないし単独で院内散歩、あるいは病院の周辺にあるスーパーなどへ買い物に出ている。病態像は概して寡黙で孤立的である。自発性もなく、表情も、話しかけなければ、暗く陰鬱である。対応は躯幹をくねらせ、一見するとやや女性的な、はにかみともとれる仕草をしてみせる。自ら妄想を語ることはなく、感情の表出に乏しい。

藤森英之「松沢病院における触法患者の実態ー触法精神障害者の入院形態の変更をめぐる問題ー」『法と精神医療』第12号(成文堂、1998年3月30日発行)P7


敢えて言いますが、上記の日垣センセイの記述(P111)における「部内マル秘資料」からの引用部分は、正確には「引用(著作権法32条)」に該当しない可能性があります。なぜなら、引用の要件のうち

(1)出典を正確に明記する(「出所の明示」、著作権法48条)。
(2)原文通りに正確に引用する(「同一性保持権」、著作権法20条1項)。

の二点をきちんと満たしていないからです。というか、出典が誰にでも閲覧可能な公的出版物に掲載された講演記事でありながら、「部内マル秘資料」などと虚偽の出典を明記しているのですから、開いた口が塞がらない。しかも、藤森氏の記事の原文から「病状の安定しているときには、」「病態像は」というAの病院内での扱いが分かる箇所を故意に削除した上での、不正確な引用。削除した箇所について(略)(中略)などの省略記号を入れて引用していないのですから、これでは原文通りの正確な引用とはとても言えません。むしろ「改竄」という表現の方が相応しいでしょう。

いや、ここまで酷いと、もはや「虚偽」「改竄」に止まらず、「盗用」「剽窃」の可能性も極めて高いです。それどころかエア取材の疑惑さえある。藤森氏の記事ではAの症状について「分裂病統合失調症)」と明記されており、日垣センセイは、Aが入院先の松沢病院統合失調症患者として治療されていることに気づいていたと考えられます。その上で、またまた悪質かつ意図的な情報操作の一環として書いているのです。とどのつまり、読者を欺いてミスリードする明白な意図を有していたこと、実は取材など殆どしていないことを、皮肉にも証明していると言えます。

日垣センセイは上記の記述について「(藤森氏の)記事の要約」と強弁する可能性もありますが、その場合も「同一性保持権(著作権法20条1項)」及び「翻案権(著作権法27条、同法43条)」などが問題になりますから、やはり「盗用」の可能性が高いと言わざるを得ません。

学術雑誌の講演記事からの「盗用」で記述を構成し、出典を偽り、または曖昧にして読者が原典を確認できないように隠蔽工作をする。さらに記述の一部を恣意的に削除して、揚句は「盗用」した講演記事(原文)には全く無いデタラメを平然と書き連ねる。何だか日垣センセイとほぼ同時期に、幻冬舎新書で盗用事件を引き起こしたコピペ病の誰かさんのような手口であり*7 *8、「剽窃」と言っても差し支えないです。


因みに、Aについては例の『法と精神医療』第12号(成文堂、1998年3月30日発行)のP1〜17に掲載された松沢病院の元副院長・藤森英之氏による「松沢病院における触法患者の実態ー触法精神障害者の入院形態の変更をめぐる問題ー」の記事以外では、岩波明『狂気という隣人』(新潮文庫、平成十九年二月一日発行)のP146〜154、同著者の『精神障害者をどう裁くか』(光文社新書、2009年4月20日初版第1刷発行)のP44〜53においても、Aの入院先の松沢病院内での様子、症状、治療、かつて引き起こした上記の殺人事件の概要などが具体的に書かれています。著者の岩波明氏は、松沢病院での勤務経験があり、同病院の勤務時代にAの担当医をしていた方です。

岩波氏もまた藤森氏同様に、例えばAの症状について『狂気という隣人』(新潮文庫、平成十九年二月一日発行)の中で「統合失調症を発症していた」(P149)、「重症の統合失調症患者」(P150)と述べており、『精神障害者をどう裁くか』(光文社新書、2009年4月20日初版第1刷発行)においても「統合失調症による心神喪失殺人のケース―テレビ騒音殺人事件」(P44)、「犯行時二二歳の統合失調症の症例」(P45)と明記しています。前者及び後者(『狂気という隣人』『精神障害者をどう裁くか』)における岩波氏の記述からは、いずれもAが松沢病院において医療スタッフから一貫して統合失調症の患者として処遇されていることも、つぶさに分かります。


検証の結果、例によって例のごとく、嘘八百に加えて今度は盗用疑惑まで発覚した本書。日垣センセイは、P&G(パクリ&ガセ)の誰かさん同様に、昔からガセパクリの常習犯だった可能性を拭えないと思います。


★参考資料

Amazonレビュー:感情的対立を煽るだけの悪しきジャーナリズム

『法と精神医療』第12号(成文堂、1998年3月30日発行)

岩波明『狂気という隣人』(新潮文庫、平成十九年二月一日発行)

岩波明『精神障害者をどう裁くか』(光文社新書、2009年4月20日初版第1刷発行)

岩波明 - Wikipedia

東京都立松沢病院 - Wikipedia

著作権法

引用 - Wikipedia

翻案権 - Wikipedia

同一性保持権 - Wikipedia

そして殺人者は野に放たれる (新潮文庫)

そして殺人者は野に放たれる (新潮文庫)

狂気という隣人―精神科医の現場報告 (新潮文庫)

狂気という隣人―精神科医の現場報告 (新潮文庫)

精神障害者をどう裁くか (光文社新書)

精神障害者をどう裁くか (光文社新書)

赤頭巾ちゃん気をつけて (新潮文庫)

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赤頭巾ちゃん気をつけて [DVD]

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