KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)

主に作家の日垣隆、猪瀬直樹、岩瀬達也、岡田斗司夫、藤井誠二などを検証しているブログです。

僕は判決文が読めないー日垣隆『裁判官に気をつけろ!』尊属殺法定刑違憲事件判決文捏造疑惑

・初めてこのエントリーを読まれる方は「日垣問題の記録」「ガッキィスレまとめサイト@ウィキ」のご一読をおススメします。



日垣隆の法律知識は正確?

従来、日垣センセイは東北大学法学部卒業という学歴を標榜し、豊富な法律知識(?)を売り物に数々の司法批判で鳴らしてきました。

それらの中で、月刊誌『KADOKAWAミステリー』(2002年7月号〜2003年5月号)誌上に「裁判長、お気を確かに!」と題して連載されたコラムは、多くの読者から反響を呼び、連載分をまとめた単行本『裁判官に気をつけろ!』(角川書店、平成15年8月30日初版発行)が2003年9月に刊行されています。単行本の帯には「法律を10倍理解し、己を守るための必読書」とあり、そこそこ好評だったのか、文庫版も序章及びあとがきを加筆した上で、文藝春秋から『裁判官に気をつけろ!』(文春文庫、2009年6月10日第1刷)と単行本同様の書名で2009年6月10日に発売されています。因みに、単行本及び文庫版を比較しても、序章及びあとがきの加筆以外は、記述に変更はありません。

実際、本書*1はネット上でググってみただけでも好意的な批評が多いです。例えば、文庫版をアルファブロガーとして名高い多読家の小飼弾氏が、自身のブログのエントリーで激賞しています。

論壇でも、評論家の宮崎哲弥氏が『週刊文春』の連載「新世紀教養講座」「ミヤザキ学習帳」(2001年1月18日〜2006年8月10日号)をまとめた自著『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社、2006年11月15日発行)のP137で、絶賛しています。

日垣隆『裁判官に気をつけろ!』(角川書店)は、裁判官の能力、資質の問題を超えて、日本の法体系の重大な欠陥を暴露する。あまりに砕けた文体で書き飛ばされているので「ホントかしら」と心配になるかもしれないが、著者の法律知識は概ね正確。見解にはほとんど賛成だ。ただし各論については異議もある。思わず目を疑うような「バカタレ判決」の例示も面白いが、それ以上に、法というものの死角を考える上で打ってつけの良書。「裏法学概論」として万人に勧める。

宮崎哲弥『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社、2006年11月15日発行)P137「新世紀教養講座第133回」から。
※初出・宮崎哲弥「新世紀教養講座第133回」(『週刊文春』2003年12月4日号)


宮崎哲弥氏によると、日垣隆『裁判官に気をつけろ!』において「著者(日垣隆)の法律知識は概ね正確」であり、「打ってつけの良書」の上、「裏法学概論として万人に」おススメだそうです。

だが、果たして本書に記述された日垣センセイの法律知識は正確で、かつ万人におススメできる良書なのでしょか?

……いや、法律知識云々以前に、実は日垣センセイは本書で、ジャーナリストとして、物書きとして絶対にやってはいけないことをしているのです。


●尊属殺法定刑違憲事件の最高裁判決文を、捏造して引用!

日垣センセイは『裁判官に気をつけろ!』の[第4章 日本から尊属殺人が消えた日]において、刑法200条に定められた尊属殺の重罰規定を違憲とした、いわゆる尊属殺法定刑違憲事件(尊属殺重罰規定違憲判決)を取り上げているのですが、同事件の最高裁判決について以下のように書いています。

※日垣センセイの原文では、実名が明記されていますが、事件関係者存命などの可能性に考慮して、引用文では仮名にしています。尚、この改変は著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」にあたると考えています。

公判記録に目をとおすと、最高裁の全判事も検事も弁護士も、なんとかしてA(仮名)さんを救おうと一生懸命だったことがよくわかります。実際、弁護側でさえ主張していない理屈さえもちだして(これは法治国家で許されるべきことではありません)、二〇〇条は違憲だと託宣したのです。で、一九九条を適用し、その犯罪行為としては《懲役一〇年が相当》としながら、÷2÷2をやって《被告人を懲役二年六月に処する。この判決確定の日から三年間右刑の執行を猶予する》との曲芸的判決を出したのでした。

日垣隆『裁判官に気をつけろ!』(角川書店、平成15年8月30日初版発行)P90
日垣隆『裁判官に気をつけろ!』(文春文庫、2009年6月10日第1刷)P113


え、《懲役一〇年が相当》……?

日垣センセイ、該当する判決の原文を一字一句確認しましたが、そのような記述は何処にもありません。判決文の事件番号と裁判年月日は、最高裁判所昭和45年(あ)第1310号同48年4月4日大法廷判決。裁判所の公式サイトで確認できます。判決の原文に存在しない文章を、勝手に存在したことにして引用するなど、完全な捏造、デッチ上げではありませんか……!

何故、日垣センセイはライター失格ともいうべき捏造に手を染めてしまったのか?実は上記の引用文の前節において次のように述べているのです。

A(仮名)に対して、一審はよりアクロバチックに心神喪失を認定して無罪、控訴審では心神耗弱と情状酌量を認め、無期(実質的には最低ラインで一四年と計算)÷2÷2で「三年六月」の刑を言い渡しました。前述したとおり、「三年六月」では執行猶予をつけられません。そこで被告側は上告し、《夫婦同然》だったので《「直系尊属」には該当しない》と強弁して刑法一九九条の適用を主張したわけです。一九九条なら懲役十二年以下が大いにありえますから、それ以下なら÷2÷2で執行猶予がつく、という策略です。

日垣隆『裁判官に気をつけろ!』(角川書店、平成15年8月30日初版発行)P89
日垣隆『裁判官に気をつけろ!』(文春文庫、2009年6月10日第1刷)P113


通常、刑事裁判の判決では、宣告刑法定刑に基づいて、処断刑で加重軽減して決定するものです。ここからは僕の個人的な推論ですが……日垣センセイは最高裁の判決の原文をろくに読んでいないか、或いは読んでも理解できず、最高裁判決でも控訴審同様に2度に亘る刑の減軽がされたと早合点して、判決文の「主文」にある懲役2年6月から、該当する懲役を「逆算」するという曲芸的な誤読をしたと考えられます。

まあ、日垣センセイの傾向として、自分の主義主張のために判決文を意図的に捏造した可能性もあります。他人のツイートを勝手に改竄する人ですから……。

そもそもこの尊属殺法定刑違憲事件(尊属殺重罰規定違憲判決)は、刑法200条の尊属殺の重罰規定を日本国憲法第14条1項の「法の下の平等」に対して違憲であり、無効とみなしただけにはとどまりません。最高裁判所違憲立法審査権を発動し、既存の法律を違憲とした最初の判例であり、様々な意味で画期的かつ歴史的な判決でした。判決の意義については、判例集の定本ともいうべき『別冊ジュリスト No.186 憲法判例百選1』(有斐閣、2007年2月28日発行)のP62〜63、憲法判例解説の専門書である野坂泰司『憲法基本判例を読み直す』(有斐閣、2011年6月10日初版第1刷発行)のP85〜102でも、それぞれ大きく取り上げられています。言うまでもなく、法律を学ぶ者にとっては、大学の法学部の講義だけでなく、弁護士などの法律の専門家の資格試験でも必須の最重要判例の一つです。


●一審判決についても虚偽の解説をしている

話を戻しますが、日垣センセイは上記の引用文において、実は一審判決についても虚偽の解説をしています。該当部分はここです。

A(仮名)に対して、一審はよりアクロバチックに心神喪失を認定して無罪、

日垣隆『裁判官に気をつけろ!』(角川書店、平成15年8月30日初版発行)P89
日垣隆『裁判官に気をつけろ!』(文春文庫、2009年6月10日第1刷)P113


心神喪失を認定して無罪」……?

日垣センセイ、一審判決は原文を裁判所の公式サイトで見ることが残念ながらできませんが、これも比較的有名な判決文なので、ネット上ではここで見ることができます。尚、この判決文を公開しているサイトは、京都産業大学法学部の憲法学習用基本判決集主題別判決一覧のコーナーです。

一審判決文を読めばお分かりいただけると思いますが……一審判決では「心神喪失」とは認定していません。正しくは刑法200条(尊属殺)を違憲とし、刑法199条(普通殺)を適用した上で、刑法36条2項(過剰防衛)とみなし、「心神耗弱」を認定して「刑を免除」です。

一審判決の内容については、上記の『別冊ジュリスト No.186 憲法判例百選1』(有斐閣、2007年2月28日発行)のP62、憲法判例解説の専門書である野坂泰司『憲法基本判例を読み直す』(有斐閣、2011年6月10日初版第1刷発行)のP86でも触れられていますが、いずれも「心神喪失」の記述など存在せず「普通殺」−「過剰防衛」+「心神耗弱」=「刑を免除」としています。

日垣センセイは、判決文はおろか、専門家による判例集及び判例解説書すらもバカにして読んでいないか、読んでも誤解しているのが明白です。こんなお粗末なレベルで、東北大学法学部卒業の学歴を売り物にして、読者及び業界関係者を欺いた上で、知ったかぶっていい加減なことを書いているのだから、開いた口が塞がりません。判決文も判例集判例解説書も読めない、分からない、確認しない人に司法を批判する資格などあるのでしょうか。いや、それ以前にジャーナリスト失格でしょう。

大方、日垣センセイは近刊の『つながる読書術』(講談社現代新書)の第3章P122でも「自分の土俵で本を読む」(執筆者の土俵で本を読まない、執筆者の意図は無視?)とか言ってますから、昔から自分勝手に誤読及び曲解を繰り返していたのでしょうね。

それにしても、版元の角川書店及び文藝春秋校閲が甘すぎます。歴代の担当編集者も迂闊です。こんな超が付くほど有名な判決文の引用及び解説について、ロクにチェックもせずにスルーしているのですから……出版関係者には猛省を促したいです。

既に上記でも取り上げた通り、宮崎哲弥氏は本書を自著『1冊で1000冊読めるスーパー・ブックガイド』(新潮社、2006年11月15日発行)のP137でべた褒めしていますが……日垣センセイの『裁判官に気をつけろ!』の一体何処が「打ってつけの良書」の上、「裏法学概論として万人に」おススメなのでしょうか。法律知識以前に、このような平然と最高裁判決の原文を捏造し、1審判決について虚偽の解説をしている著作を勧めるなど、プロの評論家として、ライターとして恥ずかしくはないのでしょうか?いくら、日垣センセイの詐術に気づかなかったとはいえ……。

1000冊近く本を読んだって、ちゃんとした専門書を読んで、きちんと理解しなければ、間違った知識が徒に増えるだけではないかと、宮崎哲弥氏には苦言を呈したいです。

小飼弾氏も多読家とのことですが、宮崎氏同様にただ読書量が多くても、定評ある専門書を読んで正確に理解しているのか疑問が残ります。

いずれにせよ、日垣センセイにはこう言いたいです。「日垣隆に気をつけろ!」「日垣センセイ、お気を確かに!」。



★参考資料

『別冊ジュリスト No.186 憲法判例百選1』(有斐閣、2007年2月28日発行)

野坂泰司『憲法基本判例を読み直す』(有斐閣、2011年6月10日初版第1刷発行)

山口厚『刑法入門』(岩波新書、2008年6月20日第1刷発行/2009年4月6日第3刷発行)

尊属殺重罰規定違憲判決上告審判決文(PDFファイル)

尊属殺重罰規定違憲判決上告審(裁判所公式サイト)

尊属殺重罰規定違憲判決(第一審判決)

尊属殺重罰規定違憲判決(控訴審判決)

尊属殺重罰規定違憲判決(上告審)

尊属殺重罰規定違憲判決 - Wikipedia

尊属殺 - Wikipedia

心神耗弱(しんしんこうじゃく)の意味・使い方 - 四字熟語一覧 - goo辞書

心神喪失(しんしんそうしつ)の意味 - goo国語辞書

刑法

憲法判例2

その時歴史が動いた〜昭和48年4月4日、尊属殺人罪が消えた日

ガッキィスレまとめサイト@ウィキ(判決文捏造関連)

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裁判官に気をつけろ! (文春文庫)

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つながる読書術 (講談社現代新書)

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*1:日垣隆『裁判官に気をつけろ!』