KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)

主に作家の日垣隆、猪瀬直樹、岩瀬達也、岡田斗司夫、藤井誠二などを検証しているブログです。

イノシシ我聞ー検証・猪瀬直樹「五輪招致舌禍事件」(その四)

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「他人を攻撃したって、つまらない。攻撃すべきは、あの者たちの神だ。敵の神をこそ撃つべきだ。でも、撃つには先ず、敵の神を発見しなければならぬ。ひとは、自分の真の神をよく隠す。」(太宰治『如是我聞』)*1


●まだまだ続く猪瀬放言の余波

(前回のエントリーからの続き)トルコのエルドアン首相が、猪瀬放言に絡んで安倍総理に辛口の社交辞令を述べていた、という現地トルコの報道を紹介しましたが、日本のマスコミでも一部が遅ればせながら取り上げていますね。5月4日付の朝日新聞によると、エルドアン首相曰く、「東京はかつて五輪を開いた。招致をあきらめ、トルコにやらせて欲しいと安倍氏に頼んだ。東京都知事に伝えてくれたらありがたい」とのことです。

http://www.asahi.com/politics/update/0504/TKY201305040117.html


トルコ地元紙の記者は「彼(エルドアン首相)は本気だ」と断言しているようですが、確かに個人的には冗談に聞こえないなあ……エルドアン首相の言動は。親日であれど、自分の立ち位置はしっかり把握していられる方ですから。

また4月19日付の日刊ゲンダイが、「タチの悪さ前任者並み 猪瀬都知事NY大名旅行」というタイトルの記事で、今回の舌禍事件前に猪瀬直樹氏のNY出張の実態を揶揄的に告発していました。

猪瀬直樹都知事がNY出張に出かけている。19日に帰国するまで5泊6日の長旅で、なぜか夫人同伴の上、政務担当特別秘書ら全12人を引き連れての大所帯。しかも移動はファーストクラスときたもんだ。

他にも、猪瀬氏の評判及び醜聞などを5月3日付の東京スポーツも取り上げています。但し、東スポの記事ですから、信憑性には疑問符が……。

出るわ出るわ猪瀬知事の「悪評」


さらに、猪瀬氏とは旧知の仲である月刊誌『噂の眞相』元編集長の岡留安則さんも、『岡留安則の「東京ー沖縄ーアジア」幻視行日記』にて、今回の件を批判的に取り上げていました。

2013.05.04

■5月某日 東京都都知事猪瀬直樹氏がやらかしてくれた。オリンピック招致に関して問われ、「イスラム教国が共有するのはアラー(神)だけで、互いに喧嘩しており、階級がある」と「ニューヨーク・タイムス」の取材で述べたのである。国際オリンピック委員会IOC)の行動規範が禁じる他の立候補都市批判をやったとして問題が表面化した。当初、猪瀬氏は「ニューヨーク・タイムス」の取材がアンフェア―であるかのような弁明をしていたが、「タイムス」側も取材のテープが残っていると強く反論すると、「不適切で訂正したい」と態度を軟化させて、早めの幕引きを狙う作戦に切り替えた。そのことで、IOCも猪瀬発言で処分することを見送り、これ以上問題化させない方向で収束をはかることになった。猪瀬氏は「トルコの人たちが長生きしたければ、日本のような文化を作るべきだ」とも述べている。猪瀬氏は大宅賞作家でもあり、メディアの取材にも慣れているはずであり、自分の発言がどういう使われ方をするか予想がついたはずである。おそらく、猪瀬発言は彼自身がかねてより主張している内容で、問題にされることなど思いもよらなかったのではないか。メディアで表面化することは少なかったが、彼自身のキャラクターとして、エラソーな態度や上から目線の居丈高さは猪瀬氏周辺でかねてより囁かれていた事実だからだ。
 この猪瀬発言が2020年の夏季五輪の招致にどういう影響を与えるかは定かではないが、少なくとも投票権を持つイスラム諸国からは敬遠されるだろうし、他の国にも少なからず影響が広がるのではないかと思われる。開催都市の決定は4か月後の9月だが、石原慎太郎前知事の念願を引き継いだ猪瀬氏の招致活動が吉と出るか凶と出るか、今後の動向が注視される。個人的な見解を述べれば、石原慎太郎が自ら都知事の職を投げ出した以上、五輪の東京招致は振り出しに戻すべきで、2020年の開催国になる必要性があるとは思えない。東京での開催に期待する声もトルコやスペインほどに高くはない。他の国に開催を譲るくらいの気持ちがあってもいいのではないか。日本がやるべきは、メルトダウンに至った福島第一原発の一刻も早い収束であり、被災者支援であり、壮大な浮かれ気分のお祭り騒ぎの創出にあるとは到底思えない。

岡留さんも猪瀬氏には手厳しいです。擁護の余地無し、といった感があります。「まあ猪瀬だから…」とマスコミの都政担当記者たちが必要以上に彼を甘やかし、つけあがらせた結果でもあります。「王様は裸だ!」と誰一人として言わなかったのか。それにしても、猪瀬氏の「お友達」や取り巻きの編集者たちが未だにダンマリを決め込んでいるのは、保身のためなのでしょう。真の「お友達」なら、こうならないように常日頃から彼を嗜めたり、或いは耳の痛い苦言を呈すべきでした。それさえも、効き目がなかった可能性が大ですが。

例え東京2020オリンピック・パラリンピック招致に成功しても、また同様のトラブルが起きれば、トルコのみならずイスラム諸国から集団ボイコットという笑うに笑えない事態にもなりかねません。猪瀬氏が発言を撤回、謝罪しましたが、これからもイスラモフォビアの「要注意人物」としてマークされ続けるでしょう。IOCもヒヤヒヤしているのでは。因みに、岡留さんは猪瀬氏の交流に加え、同業者との距離感について次のように語っていました。

噂の眞相』イズムとして書きとめておきたいのが、時に協力者でもあったり、あるいは過去にそうであった作家や評論家、ノンフィクション作家たちとの付き合い方である。「『噂の眞相』は時に付き合いがあってもバッサリ斬る、義理もない非情な雑誌」といわれたこともあった。確かに、そうしたケースは実際に何回かあったし、そのことじたいは否定しない。

例えば、テレビのコメンテーターとしても活躍している『日刊ゲンダイ』の二木啓孝氏、評論家の高野猛氏、ノンフィクションライターの猪瀬直樹、生江有二氏といった人たちもかつては『噂の眞相』の執筆協力者だった。

(中略)

ジャーナリズムは常に相互批判の関係にあるべきで、いくら協力者だからといって馴れ合いはメディアのあり様としてはマイナス材料にしかならないという『噂眞』イズムに基づく対処法を実践し続けただけの話である。そのことによって、怒りを買って絶縁関係になった人もいれば、その後に相互理解が進んで、関係性が復活した人もいる。『噂の眞相』が記事を書いたことで抗議してきた人の中には「同業者同士じゃないか」といってきた出版社の経営者や「同県人じゃないか、仲良くしよう」と懐柔してきた経済誌の編集長がいたのには驚かされた。そんな感覚こそがメディアをダメにしていく元凶であり、筆者がもっとも忌み嫌ってきたことである。

岡留安則『『噂の眞相』25年戦記』(集英社新書、2005年1月19日第1刷発行)P170〜171


同業者の「告発」としては、事実と断定はできませんが、ジャーナリストの岩上安身氏もツイートで暴露しています。

若い頃、ある出版界(原文ママ)のパーティーで初めて猪瀬さんをお見かけし、ご挨拶したら、「お前、知ってるよ」と言われました。初対面の人に「お前」呼ばわりされたのはこの一度きり。 RT @pisusangokko: 猪瀬知事にブロックされていたのか。言葉の大切さを説いていた方と記憶が…。

2013年5月4日 - 3:56*2


トルコ人を本気で怒らせたら……

トルコ人は(個人差はあるが)良くも悪くもプライドが高く……」と書きましたが、トルコ人は日本人以上に喜怒哀楽も激しく、感情表現が豊かな人が多いです。それ故、本気で怒らせると実におっかないです。トルコ人が本気で怒り狂った事例としては、トルコ、ヨーロッパ、ケニアなどを舞台に、クルド人ゲリラのPKKクルド労働者党)の指導者(当時)アブドゥッラー・オジャランの逮捕を巡る大騒動が挙げられます。トルコ人の怒りは、「トルコに迫害されているクルド人の人権を守れ!」としたり顔だったヨーロッパの人々を震え上がらせました。その詳細は、下記のリンク先の記事で分かります。


世界をゆるがしたクルド人(上)

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この時の模様は、川上洋一『クルド人 もうひとつの中東問題』(集英社新書、2002年7月22日第1刷発行)のP26〜34、P182でも触れられています。同書は、トルコ、イラン、イラクなどの中東諸国に住んでいる国を持たない世界最大の少数民族クルド人の苦難の歴史を扱ったものです。

猪瀬氏の放言はトルコ人だけでなく、イスラム世界そのものを根底から侮辱するものでした。言わば、絶対に喧嘩を売ってはいけない相手に図らずも高値で売りつけてしまったのです。だからこそ「お友達」や取り巻きの編集者たちが、「俺は知らない。俺は関係ない。俺に聞くな!」と沈黙している側面もあるでしょう。何度でも言いますが、それでもトルコは世界有数の親日国です*3。というか、イスラム世界の人々は基本的に日本と日本人に好意的です。親しき仲にも礼儀あり、という格言を猪瀬氏らは肝に銘じるべきでしょう。


★参考資料

川上洋一『クルド人 もうひとつの中東問題』(集英社新書、2002年7月22日第1刷発行)

日本とトルコの関係 - Wikipedia

レジェップ・タイイップ・エルドアン - Wikipedia

トルコ首相としてのエルドアンの10年 :: ダニエル・パイプス

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岡留安則 - Wikipedia

噂の眞相 - Wikipedia

岩上安身 - Wikipedia

アブドゥッラー・オジャラン - Wikipedia

クルド人 - Wikipedia

クルディスタン労働者党 - Wikipedia

もの思う葦 (新潮文庫)

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トルコ近現代史―イスラム国家から国民国家へ

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現代トルコの政治と経済―共和国の85年史(1923‐2008)

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「噂の真相」25年戦記 (集英社新書)

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クルド人もうひとつの中東問題 (集英社新書)

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