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・「ガジェット通信」に留まらず、タレントの水道橋博士氏の有料メルマガ「水道橋博士のメルマ旬報」の連載でも佐野眞一の盗用問題を追及している荒井香織氏が、佐野の盗用の被害者だったノンフィクションライターの溝口敦氏との共著で、告発本『ノンフィクションの「巨人」佐野眞一が殺したジャーナリズム 大手出版社が沈黙しつづける盗用・剽窃問題の真相 (宝島NonfictionBooks) 』を今月22日に出すそうです*1。既に一部の店頭に早売りのような形で置かれている可能性もあります。同書では、佐野の弟子筋である安田浩一氏もコメントしているようです*2。
荒井氏は、日垣センセイのスタッフライターとして第1の盗用事件に関与していた疑惑には、相変わらず沈黙を続けています*3。上記の溝口敦氏は、そのことを踏まえた上で荒井氏と共闘しているのでしょうか*4。安田浩一氏も荒井氏の疑惑を「全く知らない」とは、思えないのですが。
●学習院大学法学部教授・飯田芳弘の「解説」
本題。Amazonレビュアー【懸垂百回】さんが『少年リンチ殺人』(新潮文庫)に関する「Amazonレビュー:取材が下手(魚拓、※2012年8月29日閲覧)」*5の中で、学習院大学法学部教授の飯田芳弘氏が同書の解説「The road of excess leads to the palace of wisdom.」(P341〜348)を担当していることに疑義を呈していました。
そもそも飯田氏は肩書こそ「法学部教授」ですが、一貫して法学畑を歩んできたとは言い難い人物です。学習院大学法学部公式サイトのプロフィールによると、所属は政治学科であり、研究テーマはドイツ近代史及びヨーロッパ比較政治史、担当科目もヨーロッパ政治史という歴史学の専門家に近いです。このことは、著作等の内容からも推察できます*6。最終学歴が東京大学法学部とはいえ、刑事法は専門外の可能性があります。実際、解説を読んでも、本書*7における少年法の知識が間違いだらけであることに気づいていないようです*8。それどころか、法学ではなく、歴史学の知見(?)を披瀝して本書を評価しています。
熱狂に満ちた集団が、個人のコントロールを離れて暴走し、個人では想像しえない破壊行為へと突き進む。たしかに歴史の中にその類型を見つけることはさして難しくはない。たとえば歴史学における「集団心性」研究の先駆者は、フランス革命期の群衆について次のように語っている。
集合体は、人と人との間歇的な関係とは比較にならない強制力を及ぼすのである。集合体の胎内にあって、個人は、単に皆と同じにしていれば一番安心だという順応主義的な気持ちで行動するというだけではない。従わなければ、仲間の誰かが暴力的な振舞に出るかもしれないといった懼れによってだけ動かされているのでもない。集合体は、それが塊であるというそのことだけで、まるで、大嵐や荒れ狂う大海原のように、抵抗の意志を無にしてしまうのだ。
ルフェーブル『革命的群衆』(岩波文庫)
P344日垣氏の多彩な著作には、そうした真に役立つ知恵やノウハウがちりばめられている。そしてそれを生み出す日垣氏の姿勢には、次の三つの特徴がある。
まずその多くは、「我が子を殺人者にしないため」の「具体的な知恵」の例に示されるように、全体構造とプロセスを把握した上で、個々の局面においてとるべき最適な手段を検討してゆく、という発想から導き出されたものである。それはたとえば、クラウゼヴィッツが「批判(的考察)」と呼んだ思考のあり方である(『戦争論』第二篇第五章)。
P346〜347
日垣隆『少年リンチ殺人―ムカついたから、やっただけ―《増補改訂版》』解説・飯田芳弘「The road of excess leads to the palace of wisdom.」(新潮文庫、平成二十二年二月一日発行)P344、346〜347
飯田氏が、法学よりも歴史学の観点から本書を論じているのが、つぶさに分かります。巻末には「学習院大学法学部教授・ヨーロッパ政治史」と経歴が明記されていますが、「法学部教授」の看板を掲げたまま法学的検証を一切していないのですから、とんだお門違いです。一部のそそっかしい読者に「この本は、学習院大学法学部のセンセ―もお墨付きを与えているから、少年法の記述も信用できる!」と重大な誤解を与えている可能性が……。
因みに、飯田氏も解説の締めくくりによると、日垣センセイの弟さんの死に関する虚言を鵜呑みにしていたようです*9。
さて、本書を読み進める者は、第一部第五章の終わり、日垣氏が「少年犯罪被害当事者の会」の家族と飲み屋で同席した場面が描かれる箇所で、それまでの叙述のトーンが変調し始めたことに気づく。「十三年たってもまだ癒されない、という広島の小田夫妻の横に座ったのが、いけなかったのかもしれない」というやや唐突な述懐に、「何がいけなかったの?」と問いをはさむ間もないまま、「中学生だった私の弟が殺されてから、もう二十年以上が経とうとしているのに、いまだ癒されない自分を、そこに発見して愕然とした」という突然の告白を目にする。
第三者として開始した被害者家族への取材が、日垣氏の胸中に二十年にわたりずっと閉じ込められてきたものを爆発させ、日垣氏を、執念のともいうべき徹底した事件の解明へと駆り立てていった経緯についてここで詳述するのは差し控える。しかし本書を読む者は、この書物が日垣隆氏にしか書くことのできないもの、そして日垣隆氏が必ず書かなければならなかったものであることをはっきりと知る。宿命として書かれた書物の厳かな重み。本書を読み終えた者が、ある種の厳粛な感動を覚えるのは、本書がそのように生まれた書物であることによる。
日垣隆『少年リンチ殺人―ムカついたから、やっただけ―《増補改訂版》』解説・飯田芳弘「The road of excess leads to the palace of wisdom.」(新潮文庫、平成二十二年二月一日発行)P348
飯田氏も歴史家、政治学者でありながら、かくもメディアリテラシーが欠落していたとは……。
尚、飯田芳弘氏が本書の解説を引き受けた具体的な経緯は不明ですが、日垣センセイとは面識があったようです。飯田氏は日垣センセイの『部下の仕事はなぜ遅いのか』(三笠書房、2008年4月30日第1刷発行)の「第2部ラクして部下を育てる技法」(P112〜228)の「討論編」(座談会)にメンバーの一人として登場し、日垣センセイらと活発に議論を交わしています。以下は、日垣センセイによる飯田氏のプロフィールです。
飯田芳弘さん(1966年生まれ)−学習院大学法学部の教授で、ご専門はヨーロッパの政治です。日々、大学1年生から大学院生までの教育に従事されています。
日垣隆『部下の仕事はなぜ遅いのか』(三笠書房、2008年4月30日第1刷発行)P113
あくまで個人的な推測ですが、『部下の仕事はなぜ遅いのか』(三笠書房)の縁で飯田氏は日垣センセイから本書の解説を依頼され、快く受諾したのではないでしょうか。
★参考資料
Amazonレビュー:取材が下手(魚拓、※2012年8月29日閲覧)
Amazonレビュー:日垣隆は「弟の死」の真相を明らかにすべきだ
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*2:安田浩一 on Twitter: "あ、今度、その溝口さんたちと一緒に佐野さん問題についての本を出すんですよ。また宣伝しますので、よろしくです!RT@kannaQ: @yasudakoichi そりゃこんな人間を師匠と持ち上げていた人間が、ジャーナリストと自称しているんだものw作家・溝口敦氏『佐野眞一140件…"
*3:[日垣隆「盗用」] - KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)
*4:作家・溝口敦氏『佐野眞一140件の盗用』を告発【詫び状も公開】 | 日刊SPA!
*5:日垣隆の弟の死に関する新聞記事・判決文が見つかったことを受け、2012年9月1日に「Amazonレビュー:日垣隆は「弟の死」の真相を明らかにすべきだ」へと書き改められている。
*6:Amazonで販売している飯田芳弘氏の著作リスト。→Amazon.co.jp: 飯田 芳弘:作品一覧、著者略歴
*8:[日垣隆『少年リンチ殺人』] - KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)
*9:[日垣隆「弟の死」] - KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会) 日垣問題の記録 ~ 日垣隆 研究報告 ~: 弟(兄弟)