KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)

主に作家の日垣隆、猪瀬直樹、岩瀬達也、岡田斗司夫、藤井誠二などを検証しているブログです。

赤頭巾ちゃん、オオカミ中年に気をつけてー検証・日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』(補論E)

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●『犯罪白書』統計データの誤読

日垣センセイは『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫、平成十八年十一月一日発行/平成十九年二月二十日四刷)のP49、P64、P75、P87、P133において、法務省発行の『犯罪白書』「平成14年度版」「平成17年度版」の統計データを根拠に書いている(或いは可能性がある)部分があります。


※日垣センセイの原文では、実名が明記されていますが、事件関係者存命などの可能性に考慮して、引用文では仮名にしています。尚、この改変は著作権法20条2項4号の「やむを得ないと認められる改変」にあたると考えています。

その当時最新の統計(『犯罪白書 平成14年版』)によれば、二〇〇一年(平成一三年)に重大犯罪をおかした覚醒剤アルコール中毒者のうち心神喪失心神耗弱とされ不起訴となった者五五人、第一審での心神耗弱による刑の減軽が一四人である。
P49

その集会は、「精神障害者による犯罪など、ほとんど起きていない」と言う池原毅和弁護士の司会によって進められた。のち(原文ママ)に私がご本人に確認したところ、精神障害者は人口比一%程度に過ぎないのに、成人刑法犯検挙人員に対する精神障害犯罪者の比率のうち殺人では八・五%、放火では一五・七%にも達する、という統計的事実を同弁護士も「知っている」と答えざるをえなかった。
P64

D(仮名)は心神喪失とされ、不起訴処分になった。

これらのほとんどは、まったく報道されていない。こうしてまたしても事件そのものが「なかったこと」にされた。このような殺人事件が毎年平均一二五件は起きている(最近五年間で検挙された精神障害殺人者は六二五人)。昨今、世論を賑わす少年による殺人(同じく五年間で五一七人)より多いのである。

日本では精神障害殺人者のうち、およそ八五%が不起訴となっている。
P75

最近一年間では心神喪失的凶悪殺人者一一五人のうち、実に九〇人(七八・三%)が不起訴、二四人(二〇・九%)が裁判で刑の減軽を受けている。限りなく殺人に近い傷害致死では不起訴が八五・七%、刑の減軽が一四・三%。強盗では不起訴が六五・〇%、刑の減軽は三五・〇%。放火では不起訴が八二・一%、刑の減軽が一七・九%である(『犯罪白書 平成14年版』)。裁判での無罪認定は、ほとんど皆無である。

心神喪失が争われる事件では、起訴前の精神鑑定次第で八割以上が不起訴となり、いったん起訴されれば必ず心神耗弱で刑が減軽される。思考停止と私が言う所以である。
P87

刑法三九条を適用された年間六四九人のうち、精神分裂病*1は四〇二人、躁鬱病五一人、癲癇九人、アルコール中毒二〇人、覚醒剤中毒一七人などとなっている(『犯罪白書 平成17年版』)。アルコール中毒覚醒剤中毒による凶悪犯罪が不起訴ないし刑が減軽される理不尽さについては、前章までに何度も具体的に書いてきた。
P133

日垣隆『そして殺人者は野に放たれる』(新潮文庫、平成十八年十一月一日発行/平成十九年二月二十日四刷)P49、P64、P75、P87、P133



この中で明らかに問題があるのは、P87の記述です。例えば「殺人者一一五人」と書かれていますが……これは『平成14年版 犯罪白書』の「1-2-4-3表 心神喪失者・心神耗弱者と認められた者の罪名・精神障害名別処分結果」の統計データを根拠にした数字のようです。しかし、日垣センセイの完全な誤読だと言わざるえません。

何故なら、この表の「罪名別」欄の「殺人(件数)」とは、既遂(「殺人罪*2)だけでなく、未遂(「殺人未遂罪」*3)及び予備(「殺人予備罪」*4)も合計したものだからです。このことは、『犯罪白書』の冒頭にある「凡例」にて箇条書きで説明してあります。要するに「殺人者一一五人」とは、「殺人罪」「殺人未遂罪」「殺人予備罪」をカウントして算出された合計数なのです。傷害致死、強盗なども当然ながら未遂等を合算しています。

「殺人予備罪」とは、端的に言えば、殺人の実行段階以前の準備段階を罰する刑法の条項です。より具体的には、殺人を思い立って凶器となるナイフや銃などの武器や青酸カリなどの毒物を用意して犯行現場を事前に下見に訪れていた場合などが、処罰の対象になります。但し、殺意(犯意)の立証が困難なこともあるため、実際にはストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)と併用して適用されることもあるそうです*5

精神障害者については、病的な妄想・幻覚に駆られて、殺人を決意して金物屋で包丁を購入するも、あまりの挙動不審ぶりから店主によって警察に通報されて逮捕……などのケースが可能性として考えられるでしょう。

いずれにせよ、「殺人予備罪」で逮捕・検挙された触法精神障害者も上記の表の「殺人」にカウントされるのですが、彼らは一般的な意味での「殺人者」ではありません。「殺人未遂罪」で逮捕された触法精神障害者も同様です。繰り返しますが、一口に殺人と言っても、既遂(殺人罪)・未遂(殺人未遂罪)・予備(殺人予備罪)は、それぞれ全く異なります。世間一般で「殺人者」と定義されているのは、言うまでもなく、既遂犯です。

結局のところ、日垣センセイは確信犯的に『犯罪白書』を「誤読」し、触法精神障害者の犯罪数の内訳を明かさないまま、読者に重大な誤解を与えかねない悪質な印象操作をしている可能性があります。無論、例によって例のごとく、単に『犯罪白書』の「凡例」を読んでいないのか、或いは読んでも分からないので途方もない勘違いをしていることも充分以上にありえますが……。



★参考資料

Amazonレビュー:感情的対立を煽るだけの悪しきジャーナリズム

http://law.e-gov.go.jp/htmldata/M40/M40HO045.html

刑法 - Wikipedia

刑法 (日本) - Wikipedia

刑法学 - Wikipedia

殺人罪 - Wikipedia

殺人罪 (日本) - Wikipedia

未遂 - Wikipedia

予備 - Wikipedia

実行の着手 - Wikipedia

ストーカー行為等の規制等に関する法律 - Wikipedia

刑法第199条 - Wikibooks

刑法第201条 - Wikibooks

刑法第203条 - Wikibooks

法務省:犯罪白書

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