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●日垣隆の「弟の死」を巡る記述の変遷が一目瞭然なケース
当ブログでは、日垣センセイの著作等における弟さんの死*1の記述の変遷ぶりを繰り返し検証してきました。以下はそのエントリーのリンク先です。
The History God Only Knowsー検証・日垣隆「弟の死」の謎 - KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)
A Whole New History God Only Knowsー検証・日垣隆「弟の死」の謎(補論) - KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)
その後も、折に触れて調査を続行していたのですが、例によって日垣センセイが毎日新聞社発行の週刊誌『エコノミスト』(1995年1月3日/1月10日迎春合併号)誌上で連載していたコラム「敢闘言」にて、以下の記述を新たに発見しました。
耐えがたい苦悩に直面したとき自死も選択肢の一つだと思えてしまったら、助走は早まる。自死が、同世代または類似した環境下で伝染しやすいのは、選択肢の一つとして脳裏に浮かぶ可能性がメディアによって高まるからだ。私は中学三年生のとき二つ下の弟を学校事故で失い、以来、正直に告白すれば、弟を殺したに等しい教師たちに殺意を抱いてきた。彼らを許す気になるまで一〇年以上がかかった。成人してから大病を患い、薬の副作用なのか寝小便をたれ、私は真剣に自死を思ったことがある。そのさい防波堤になってくれた二人がいる。一人は私を看病したばかりか妻になった。もう一人は亡き弟である。子どもに先立たれた親を間近に見て、これほどの親不孝はないと肝に銘じざるをえなかった。この体験を私は一度だけ文章にしたことがあり、『日本人が変わった』(毎日新聞社)*2に収録されている。長女が誕生し、私の病はまだ完治していなかったのだが、その瞬間から、私は一つのことを祈り続けている。学校や会社とは命を奪われない限りにおいて付き合えばよい。そんなものと命を交換してはいけない。その監視は親の義務である。事故発生時だけ学校バッシングに励むのは、子どもの管理強化に手を貸す道なのだ。過労死のケースでも痛感することだが、自死への助走を含む葛藤を抱え始めた場に、愛する者を送り出してはならない。親たちよ、子を死なせてはいけない。子どもたちよ、親に先立たないでください。きょう(原文ママ)もまた私は、祈るしかない。
日垣隆「敢闘言」『エコノミスト』(毎日新聞社、1995年1月3日/1月10日迎春合併号)P11
上記の「敢闘言」の連載分からは、日垣センセイが『エコノミスト』(毎日新聞社、1995年1月3日/1月10日迎春合併号)誌上の掲載時、自身の弟さんの死因を「学校事故」「弟を殺したに等しい教師たち」と、あくまで「事故死」とみなしていたことが伺えます。
●『敢闘言』の単行本、文庫版では「弟を殺され」「弟を殺した者たち」と記述の書き換えが!
しかし……前記の『エコノミスト』(毎日新聞社、1995年1月3日/1月10日迎春合併号)誌上に載った「敢闘言」の連載分に加筆修正を加えて所収した単行本の『敢闘言 さらば偽善者たち』(太田出版、1999年5月22日印刷/1999年5月28日初版発行)P143では、記述が下記のようになっているのです。
命を奪われない限りにおいて
耐えがたい苦悩に直面したとき自死も選択肢の一つだと思えてしまったら、助走は早まる。自死が、同世代または類似した環境下で伝染しやすいのは、選択肢の一つとして脳裏に浮かぶ可能性がメディアによって高まるからだ。
私は中学三年生のとき二つ下の弟を殺され、以来、正直に告白すれば、弟を殺した者たちに殺意を抱いてきた。彼らを許す気になるまで一〇年以上かかった。
成人してから大病を患い、薬の副作用なのか寝小便をたれ、私は真剣に自死を思ったことがある。そのさい防波堤になってくれた二人がいる。一人は無残な私を二四時間看病したばかりか妻になった。もう一人は亡き弟である。子どもに先立たれた親を間近に見て、これほどの親不孝はないと肝に銘じざるをえなかった。この体験を私は一度だけ文章にしたことがあり、『日本人が変わった』(毎日新聞社)*3に収録されている。長女が誕生し、私の病はまだ完治していなかったのだが、その瞬間から、私は一つのことを祈り続けている。学校や会社とは命を奪われない限りにおいて付き合えばよい。そんなものと命を交換してはいけない。その監視は親の義務である。事故発生時だけ学校バッシングに励むのは、子どもの管理強化に手を貸す道なのだ。
過労死のケースでも痛感することだが、自死への助走を含む葛藤を抱え始めた場に、愛する者を送り出してはならない。親たちよ、子を死なせてはいけない。子どもたちよ、親に先立たないでください。きょう(原文ママ)もまた私は、祈るしかない。
ときどき不可解に思うことがある。葛藤もなしに説教を垂れてしまえる人々の脳内をー。
日垣隆『敢闘言 さらば偽善者たち』(太田出版、1999年5月22日印刷/1999年5月28日初版発行)P143
※初出・日垣隆「敢闘言」『エコノミスト』(毎日新聞社、1995年1月10日号)P11*4
また、同書*5を文庫化した『敢闘言 さらば偽善者たち』(文春文庫、2002年4月10日第1刷)P299〜300においても。
命を奪われない限りにおいて
耐えがたい苦悩に直面したとき自死も選択肢の一つだと思えてしまったら、助走は早まる。自死が、同世代または類似した環境下で伝染しやすいのは、選択肢の一つとして脳裏に浮かぶ可能性がメディアによって高まるからだ。
私は中学三年生のとき二つ下の弟を殺され、以来、正直に告白すれば、弟を殺した者たちに殺意を抱いてきた。彼らを許す気になるまで一〇年以上かかった。
成人してから大病を患い、薬の副作用なのか寝小便をたれ、私は真剣に自死を思ったことがある。そのさい防波堤になってくれた二人がいる。一人は無残な私を二四時間看病したばかりか妻になった。もう一人は亡き弟である。子どもに先立たれた親を間近に見て、これほどの親不孝はないと肝に銘じざるをえなかった。この体験を私は一度だけ文章にしたことがあり、『日本人が変わった』(毎日新聞社)*6に収録されている。長女が誕生し、私の病はまだ完治していなかったのだが、その瞬間から、私は一つのことを祈り続けている。学校や会社とは命を奪われない限りにおいて付き合えばよい。そんなものと命を交換してはいけない。その監視は親の義務である。事故発生時だけ学校バッシングに励むのは、子どもの管理強化に手を貸す道なのだ。
過労死のケースでも痛感することだが、自死への助走を含む葛藤を抱え始めた場に、愛する者を送り出してはならない。親たちよ、子を死なせてはいけない。子どもたちよ、親に先立たないでください。きょう(原文ママ)もまた私は、祈るしかない。
ときどき不可解に思うことがある。葛藤もなしに説教を垂れてしまえる人々の脳内をー。
日垣隆『敢闘言 さらば偽善者たち』(文春文庫、2002年4月10日第1刷)P128〜129
※初出・日垣隆「敢闘言」『エコノミスト』(毎日新聞社、1995年1月10日号)P11*7
日垣センセイは、ここでも雑誌掲載時の「学校事故」「弟を殺したに等しい教師たち」(『エコノミスト』1995年1月3日/1月10日迎春合併号)から、単行本・文庫化に際して「弟を殺され」「弟を殺した者たち」(『敢闘言 さらば偽善者たち』)と、自身の弟さんの死因の記述を巧妙に書き換えているのが分かります。というか、記述の変遷ぶりが一目瞭然です。
因みに、本エントリーに合わせて上記のリンク先の検証エントリーの一部もまた更新しましたので、再度御参照下さい。
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*1:サンクチュアリ1973.7.23ー検証・日垣隆「弟の死」の真相 - KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会) 世界の終りと1977.1.21ー検証・日垣隆「弟の死」の真相(補論) - KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会) DARKER THAN DARKNESS1977.1.22ー検証・日垣隆「弟の死」の真相(補論A) - KAFKAESQUE(日垣隆検証委員会)
*2:日垣隆、井出孫六、工藤美代子、島田裕巳『日本人が変わったーふくらんだ泡が弾けて』(毎日新聞社、1992年8月5日印刷/1992年8月20日発行)のこと。
*3:日垣隆、井出孫六、工藤美代子、島田裕巳『日本人が変わったーふくらんだ泡が弾けて』(毎日新聞社、1992年8月5日印刷/1992年8月20日発行)のことだが、この本では日垣センセイは弟さんの死を「教師たちの重大な過失による学校事故で、命を奪われたのである。」(P84)としている。
*4:単行本の初出の表記では『エコノミスト』(毎日新聞社、1995年1月10日号)となっているが、実際には掲載号の日付は「1995年1月3日/1月10日迎春合併号」である。
*5:『敢闘言 さらば偽善者たち』(太田出版、1999年5月22日印刷/1999年5月28日初版発行)のこと。
*6:日垣隆、井出孫六、工藤美代子、島田裕巳『日本人が変わったーふくらんだ泡が弾けて』(毎日新聞社、1992年8月5日印刷/1992年8月20日発行)のことだが、この本では日垣センセイは弟さんの死を「教師たちの重大な過失による学校事故で、命を奪われたのである。」(P84)としている。
*7:単行本の初出の表記同様、文庫版でも『エコノミスト』(毎日新聞社、1995年1月10日号)となっているが、実際には掲載号の日付は「1995年1月3日/1月10日迎春合併号」である。